難聴・耳鳴り

1,診察

[1]主訴の問診と随伴症状

【主訴の状態】

①子供のころから難聴があるー腎虚熱証か肺虚肝実証。

②突発的に難聴になったー脾虚肝実証か肺虚肝実証。

③歳とともに聞こえなくなったー腎虚熱証。

④若いのに耳鳴りがあるー肝虚熱証。

⑤歳とともに耳鳴りになったー腎虚熱証。

⑥中耳炎になったー脾虚肝実熱証。

⑦耳が痒いー腎虚熱証。

【随伴症状】

①眩暈があるー眩暈を主訴として治療する。

②耳鳴りのために不眠があるー肝虚熱証か腎虚熱証。

③痛みや発熱があるー脾虚肝実熱証。

④発熱後の耳痛ー脾虚肝実熱証。

⑤耳痛、発熱なく、耳閉感と難聴ー脾虚肝実熱証。

[2]原因・経過・既往症

①肩凝り、房事過度、老化が原因ー腎虚熱証か肝虚証。

②更年期に関係する耳鳴りー肝虚熱証か肺虚肝実証。

③交通事故後の耳鳴りー脾虚肝実証。

④発熱してから耳鳴り、難聴、耳痛ー脾虚肝実熱証。

⑤子供のころに中耳炎、その後に難聴ー腎虚熱証か肝虚証。

⑥遺伝的、先天的に難聴ー腎虚熱証。

⑦糖尿病、高血圧、甲状腺疾患があるー腎虚熱証。

2,証の決定

肝虚熱証

[1]病証

①肩凝りと同時に耳鳴り、難聴、耳閉感がある。

②耳鳴りと同時にのぼせ、イライラ、頭痛、不眠がある。

③頭痛、頭重、眩暈などとともに耳鳴り、耳閉感がある。

④更年期による耳鳴り。

⑤耳の周囲が痛いことがある。

⑥耳鳴りが変化する。

 

[2]切診

【切経】

①熱証だが、耳の周囲の経絡に圧痛が出ていることは少ない。

【腹診】

①左脇下硬があり、左臍傍に動悸がある。

②鼠経上部に圧痛がある。

【背診】

①肩甲骨内側の硬結や天柱、風池、完骨、翳風などに硬結がある。

 

[3]脈診

①浮いて弦で有力である。特に左関上が浮いている。

②重按で左関上と尺中は虚している。

③左右の寸口が重按して弦で有力。

肝虚寒証

[1]病証

①肩凝り、手足の冷え、立ち眩みなどがある。

②耳鳴りはさほど重くない。

③小児期に中耳炎になったことがある。

④難聴が主になっている。

 

[2]切診

【切経】

①耳の周囲の経絡に軽い圧痛が出ている。

【腹診】

①回盲部に圧痛がある。

【背診】

①頸の凝りがある。

②肩甲骨内側の凝りがある。

 

[3]脈診

①沈、細、虚で遅いことがある。

②重按して左関上と尺中が虚している。

脾虚肝実熱証

[1]病証

①発熱、耳痛がある。

②または発熱、耳痛がなく難聴と耳閉感がある。

③熱がないのに夜になって突然耳痛が起こることがある。

 

[2]切診

【切経】

①耳の周囲や翳風に硬結と圧痛がある。

【腹診】

①胸脇苦満がある。

②左右の腹直筋の引きつりがある。

【背診】

①膈兪から肝兪にかけて硬くて圧痛がある。

②全体に筋肉が軟弱で脾兪、胃兪周辺が隆起し、按圧すると陥下する。

 

[3]脈診

①全体に沈、弦で左寸口と右関上が虚している。

②左関上は弦で底力のある脈になっている。

③熱があれば浮き気味で数脈が加わる。

肝実証

[1]病証

①気鬱、肩凝りがある。

②便秘がちだが食欲に変化がない。あるいは食欲旺盛。

③中耳炎からではなく、体質として瘀血が多い人が肩こりになるとそれが原因で突発性難聴になることがある。

 

[2]切診

【切経】

①翳風や耳の周囲に硬結が出ている。

【腹診】

①右脇下硬がある。

②下腹部に瘀血性の抵抗と圧痛がある。

③肺虚肝実証であれば鼠径上部に圧痛がある。

【背診】

①肩甲骨内側や仙骨部分に硬結がある。

 

[3]脈診

①左関上が沈、細、濇、実。または沈、弦、実の時は肝実証である。

②脾虚肝実証であれば右関上が虚、肺虚肝実証であれば左尺中が軽重ともに虚している。

腎虚熱証

[1]病証

①難聴、耳鳴りと同時に耳が痒いことがある。

②難聴、耳鳴りと同時に手足の煩熱、動悸、息切れ、夜間排尿、腰痛などがある。

③老齢になってからの難聴は腎虚熱証である。

④足が冷えて上半身は熱感がある。

 

[2]切診

【切経】

①腎虚の耳疾患は陰虚が主なので陽経の反応が現れていないものが多い。

【腹診】

①下腹部の任脈は力が抜けているが、左右の胃経は引きつっている。

【背診】

①腎兪、志室に硬結がある。

 

[3]脈診

①浮いて大きく遅い。重按すると力があることがある。

②左尺中は虚して左寸口が有力なことが多い。

③沈んで硬い革脈のことがある。

3,治療

[1]本治法の治療穴

【肝虚証】

①熱証のときは陰谷、曲泉、太敦の補法。足竅陰、関衝の瀉法。

②肺経熱であれば魚際の補法。心経熱であれば中衝の瀉法。

③寒証の時は太谿、太衝、大鐘、蠡溝、俠谿、曲池、陽池の補法。

【脾虚肝実熱証】

①大陵、太白を補った後で行間、足臨泣、中渚などを瀉法。

②太陽経に熱があれば前谷、腕骨、束骨、金門の補瀉。

③陽明経に熱があれば商陽、合谷、陽谿、偏歴の補瀉。

④少陽経に熱があれば液門、外関、三陽絡、四瀆、会宗、翳風の補瀉。

【脾虚肝実証または肺虚肝実証】

①脾虚肝実証は大陵、労宮、太都、太白の補法。

②肺虚肝実証は尺沢、復溜、陰谷、湧泉の補法。

③それぞれ期門、日月、行間、曲泉、足臨泣、三陰交、百会などの圧痛硬結に瀉法。

[2]標治法の治療穴

①顔面部の圧痛硬結を補瀉する。